洗浄と切り離せない地球環境の話①|オゾン層破壊と地球温暖化
産業洗浄は、文字通り産業の発展とともに進歩してきました。そんな産業の発展は、私たちが生活している地球環境があってこそ成り立ちます。つまりは、洗浄分野においても、地球環境への配慮は常に必要なものなのです。そんな地球環境に対して私たちはどのような部分に配慮をすべきなのでしょうか。今回はその具体例として、オゾン層や温室効果ガスと洗浄について見ていきましょう。
1.オゾン層とは
オゾンは、3つの酸素原子からなる気体です。大気中に存在するオゾンの9割が地上10km〜50km上空の成層圏に層のように厚く存在していて、この部分を一般的に「オゾン層」と呼びます。オゾン層は、生物にとって有害な波長280nm〜315nmの紫外線を吸収してくれるため、地上の生態系保護で重要な役割を担っています。
そんなオゾン層が“薄くなっているのではないか”と問題提起されたのが1980年代頃のこと。この時、原因のひとつに挙げられたのがフロン類でした。
※環境省 パンフレット「オゾン層を守ろう」2022年版 p2より引用
1-1.フロン類とは
フロンは、炭素とフッ素の化合物であるフルオロカーボンの総称です。主に現代では、クロロフルオロカーボン(CFC)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)がフロン類と呼ばれています。
化学的に安定していて、不燃性・低毒性が特長のフロン。その扱いやすさから、かつては冷蔵庫やエアコンの冷媒、精密部品の洗浄剤、断熱材などの発泡剤、スプレーの噴射材など広く使用されていました。
※環境省 パンフレット「オゾン層を守ろう」2022年版 p2より引用
1-2.フロンの何が問題だったのか
フロン類自体が直接的に有害だったわけではありません。しかし、オゾン層を壊してしまう要素として、塩素が含まれていたことが問題になったのです。
【頑丈な構造が問題の一因】
フロン類の“安定した性質”は、その“壊れにくい構造”に起因しています。そして、“壊れにくい構造”は、大気中でも長く存在しやすい(寿命が長い)のです。大気中でも長く存在するフロン類はオゾン層が多く存在する成層圏まで到達し、紫外線に晒されて初めて分解されます。
この分解時に塩素が含まれていると、開裂が起こり、塩素ラジカルが発生。塩素ラジカルはオゾンと反応することで、オゾン層が連鎖的に破壊されてしまうのです。
【オゾン層が壊されるとどうなる?】
オゾンが少なくなる(=オゾン層が薄くなる)と、地上に紫外線が届きやすくなります。紫外線は、人間にとって不可欠なビタミンDの合成や殺菌作用といったメリットもある一方で、デメリットも存在します。その一部が、人間でいえば皮膚がんや白内障といった病気が発症しやすくなるといった健康被害です。そしてこの影響は人間だけに留まりません。植物などにも影響を及ぼすことから、生物・生態系全体に広く影響が及んでしまいます。
参照:環境省「紫外線環境保健マニュアル2020」 P16より
1-3.オゾン層保護に関する国際的な取り組み
1960年代から世界的に観測が始まったオゾン層ですが、1980年代頃に南極上空にオゾン濃度が低い部分(オゾンホール)が見つかり、世界的な取り決めがされていくことになります。
1985年にはオゾン層保護を目的とした「ウィーン条約」、1987年にはオゾン層破壊の懸念がある物質の供給を制限する国際的な規制枠組みとして「モントリオール議定書」が採択されました。
<オゾン層保護に関連する国際的な取り組み>
1985年採択 |
ウィーン条約 |
オゾン層の保護を目的とする国際協力のための基本的枠組み。 |
1987年採択 |
モントリオール議定書 |
ウィーン条約をもとに、オゾン層を 破壊する物質の廃絶に向けた規制措置を実施する国際的な取り決め。 |
洗浄剤との関連性としては、モントリオール議定書の採択を受けて「1,1,1-トリクロロエタン」と「クロロフルオロカーボン(CFC)-113」は全廃が決定。
その後、代替フロンとしてハイドロフルオロカーボン(HCFC)が新たに開発されましたが、オゾン層への影響がゼロではなかったことが判明し「HCFC-1416」が2010年に全廃、続いて「HCFC-225」も2020年に全廃されることになりました。
2.地球温暖化とは
オゾン層破壊と同じように、洗浄で意識すべき現象に地球温暖化があります。地球温暖化は、地球上の温度が上昇する現象のことです。この現象が引き起こされる原因は、温室効果ガスにあります。
そもそも地球の温度は、太陽からのエネルギーによって温められた熱と、加熱された地表から赤外線として放射される熱がバランスをとって一定に保たれています。地表からの赤外線は、何もなければそのまま宇宙空間にすべて放出されてしまいますが、その地表からの赤外線を吸収して一部を地表に返す働きをしているのが“温室効果ガス”です。
この温室効果ガスが大気中に大量に放出されると、濃度が増加します。それに伴い温度を保つ温室効果が高まることで地上の温度が上昇する。これが地球温暖化の仕組みです。
出典:環境省
2-1.温室効果ガスとは
前述した温室効果ガスの主な種類には、二酸化炭素、代替フロン、メタン、一酸化二窒素などが挙げられます。最も大きな割合を占める二酸化炭素は、私たちの生活にも身近なものであり、産業の発展とともに排出量は増加しているのが現状です。
また冒頭でも触れたように、工場などで使用される点で、産業の発展と洗浄剤は密接な関係にあります。そして、油脂洗浄力の高さから産業洗浄でかつて用いられていた特定のフッ素系洗浄剤も温室効果ガスの代替フロンに含まれることから、無関係ではありません。
※環境省「2021 年度(令和3年度)の温室効果ガス排出・吸収量(確報値1)について」のデータを基に作成
2-2.地球温暖化係数とは
温室効果ガスについては、地球温暖化係数 (GWP:Global Warming Potential)と呼ばれる指標も存在します。これは、温室効果ガスの主な構成要素である二酸化炭素を基準として、ほかの温室効果ガスが持つ温暖化能力を示す数値です。計算方法はまだ世界的に統一されていませんが、温暖化を考える際のひとつの指標として機能します。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書の値によると 、メタンは28倍、一酸化二窒素は265倍、フロン類は高いもので数万倍の温暖化能力を持つとされています。
2-3.国際的な地球温暖化抑制に向けた取り組み
温暖化が進むと、私たち人間の生活はもちろん、地球上の生態系全体へも影響が及んでしまいます。この状況を受けて、国際的な温暖化対策として下記のような条約の締結や取り組みの決定がされました。
<温暖化対策に関する国際的な取り組み>
1992年採択 |
気候変動枠組条約 |
大気中の温室効果ガスの濃度の安定化を究極的な目的とし、地球温暖化の抑制を目指して国際的な枠組みを定めた条約。 |
1997年採択 |
京都議定書 |
先進国を対象に、法的拘束力のもと数値目標を設定した温室効果ガス排出量についての枠組み。 |
2015年採択 |
パリ協定 |
京都議定書の後継として、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み。 |
これらに加え、2016年にはアフリカのルワンダで開催された第28回モントリオール議定書締結国会合において、先進国・途上国の垣根を超えて温室効果ガスの具体的な削減計画に各国が合意。同会合では、代替フロンの一部を追加でモントリオール議定書の規制対象とする改正提案(キガリ改正)が採択され、フッ素系洗浄剤でも使用されていたハイドロフルオロカーボン(HFC)のうち18種が新たに規制対象となりました。
3.環境と洗浄の現在地
ここまで紹介してきたように、主に環境への影響が懸念されるような洗浄剤は、現在では世界的な規制によって厳しく管理されています。
中でもフッ素系洗浄剤においては、オゾン層破壊への影響がなく、分子中に塩素分子を持たないハイドロフルオロエーテル(HFE)類やハイドロクロロフルオロフィレン(HCFO)類。そして、オゾン層への影響はもちろん、地球温暖化への影響も少ないハイドロフルオロフィレン(HFO)類などが今注目されています。
4.まとめ
安定した地球環境は、私たちが生活する上で不可欠です。温暖化の進行は、そんな生活すらままならないものとなってしまう可能性を秘めています。しかし、オゾン層については現状の取り組みが続けば、2060年代には南極上空のオゾンホールが1980年代水準に戻るという予想もされています。 以上のことから、いま未来のためにできることを、洗浄においても考え続けることが重要だといえるでしょう。