【フッ素系洗浄剤の現在と未来】硝子メーカーのAGC社はどのようにフッ素系洗浄剤と関わってきたのか 【中編】
“Your Dreams, Our Challenge”をブランドステートメントに掲げ、モビリティや建築・社会インフラ、環境・エネルギー、農業・医療、生活関連など、あらゆるシーンの化学製品を手がけるAGC株式会社。フッ素化学品事業においては、次世代型フッ素系洗浄剤『AMOLEA(アモレア) AS-300』ほか、多くのフッ素製品を展開しています。
本インタビューではそんなAGC社で25年にわたってフッ素系洗浄剤に関わり続けている花田氏に、同社のフッ素系洗浄剤の歴史などをお伺いしました。
【前編】では、JFE商事エレクトロニクスがAGC社の『AMOLEA』の取り扱いに至った経緯を。続く【後編】では、『AMOLEA』の特長とそれによってもたらされる未来についてお伺いした内容の公開を予定しています。ぜひ、
【前編】【後編】も併せてご覧ください。
※本記事は全3編(前編・中編・後編)のうち、【中編】です。
フッ素系洗浄剤と共に歩み続けて“四半世紀”
―――花田様のご経歴を伺って、まずはフッ素系洗浄剤に関わってきた年数の長さに目が留まりました。よろしければ花田様の歴史からお伺いできますか?
花田さま>
はい。1991年に入社して以来、入社後7年半は生産技術・製造・受け払いを担当し、その後はフッ素系洗浄剤に関わり続けてきました。フッ素系洗浄剤を担当し始めてまず関わったのは、『アサヒクリン』の製品開発でした。その後、『アサヒクリン』の技術サポート、マーケティング、事業企画など、製品の開発から販売に関わる部分までひと通り経験をしてきました。
―――開発だけでなく、マーケティングや事業企画など、製品に関わるひと通りの流れを経験してきている方はなかなかいらっしゃらないように思います。また、中でも「技術サポート業務」というものがどのような内容なのかが気になったのですが、よろしければ教えていただけますか?
花田さま>
技術サポートは、お客様の現場で洗浄剤の効率や効果を最大化させる方法を一緒に考える仕事です。洗浄剤そのものを変えることは難しいので、洗浄装置のご提案も含めて、最善のフィッティングをしてお客様の環境を整えるサポートをするイメージですね。
たしかに改めて振り返ってみると、「自分で開発したものを自分で販売して、お客様のニーズに合わせて調整する…」ということを『アサヒクリン』と『AMOLEA』の2つの製品でやれたことは、とてもめずらしい経験をさせてもらいました。
“硝子メーカー”がフッ素系製品を手がける理由
――ご経歴について教えていただきありがとうございました。そんな花田様が勤めていらっしゃるAGC社には、“硝子メーカー”という印象が強い方も多いように感じています。今回フッ素系洗浄剤に長年関わってきたとのことですが、よろしければどのようにして硝子以外の製品もAGCで取り扱うようになったのかについて、お話を伺えますか?
花田さま>
AGCは、もともと「旭硝子株式会社」の名前で、国産の硝子メーカーとして1907年にスタートしました。その後、硝子の主原料であるソーダ灰(炭酸ナトリウム)の内製化を目的に現在の化学品事業がスタートしたんです。これが硝子だけでなく、関連した素材も製造するようになったきっかけといえるでしょう。
また、ソーダ灰のナトリウムは塩を電気分解することで得られますが、その際にナトリウムと同じ量の塩素も作られます。この塩素も製品化することから、AGC独自のケミカルチェーンが誕生しました。
その後、塩素と似た性質を持ち、塩素よりも付加価値が高いフッ素に着目したのがフッ素系製品を手がけるきっかけになったと言われています。
環境との共生:「代替フロン」の誕生
―――ありがとうございます。硝子の原料、そして関連する素材…というように徐々に関わるものが拡大。その結果として、フッ素系洗浄剤までたどり着いたのですね。フッ素系洗浄剤といえば、環境との共生が課題となっているイメージがあります。その点について、お話を伺えますか?
花田さま>
わかりました。それではまず、「なぜフッ素系洗浄剤が環境と関係するのか」という部分からご紹介します。
フッ素系洗浄剤は、”不燃性”と”速乾性”という特長を持ち、工業製品の洗浄で広く利用されてきたため、工業の発展と密接に結びついているのです。
1980年代、CFC(クロロフルオロカーボン)-113は、 不燃・速乾性に加え、高い油脂洗浄力と樹脂影響が小さく、洗浄剤として非常に優れた特性を持っていたため、高い人気を誇っていました。
―――家電製品をはじめ、工業製品の洗浄でよく用いられていたからこそ、工業全体における問題の一部として、フロンも認識されたということですね。
花田さま>
しかし、CFC類はオゾン層を破壊し、皮膚がんや白内障の発生率が増加することが指摘されて規制対象になり、日本では1995年末で全廃することが決められました。そこで、「環境に配慮した新しい洗浄剤を作らなければ!」と、世界中の化学品メーカーと同じく、AGCも開発を急ピッチで進めました。
そして、1991年に世界に先駆けて開発し、製造を始めたのがHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)類の『アサヒクリン AK-225』です。
さらなる環境負荷の低減を求めて:次世代型の登場
―――フッ素系洗浄剤として環境へ配慮した進化を目指したものの、まだ環境への懸念点が残されていたのですね。日本ではCFC類は1995年に全廃、HCFC類は2019年末で全廃されたと認識しています。
花田さま>
その通りです。そして、HCFC類である『アサヒクリン AK-225』がフッ素系洗浄剤の”第二世代”とすれば、より環境への負荷を抑えた”第三世代”として世界的に新しく開発されたのがHFC(ハイドロフルオロカーボン)類とHFE(ハイドロフルオロエーテル)類です。
この時、AGCではHFC類として『アサヒクリン AC』シリーズを、HFE類として『アサヒクリン AE-3000』を新たに開発しました。これらは、オゾン層破壊係数が「0」のため、オゾン層を破壊しない点でHCFC類の課題を解決したフッ素系洗浄剤です。
しかし、HFC類についても、現在では段階的な削減目標が定められています。
―――モントリオール議定書について2016年に行われた「キガリ訂正」ですね。
※キガリ訂正とは
地球温暖化対策を推進するにあたって、モントリオール議定書で従来定めていた代替フロン(CFC類、HCFC類に加え、HFCも規制の対象となった。
参考:経済産業省「モントリオール議定書の改定について」
花田さま>
はい。HFC類は、確かにオゾン層を破壊しません。しかし、地球温暖化への影響が新たな課題となりました。
HFC類は地球温暖化係数が高く、1kgが大気に放出されると千kg以上のCO2を排出したことに相当するため、削減が求められるようなりました。
これを受けて、再び世界の化学品メーカー各社は、より一層地球環境への負荷が低い新たなフッ素系洗浄剤の開発を進めることになりました。
AGCが新たなフッ素系洗浄剤として開発に成功したのが、洗浄能力の向上と地球温暖化係数の極小化に成功したHFO(ハイドロフルオロオレフィン)類の『AMOLEA(アモレア) AS-300』です。
―――まさに環境問題に対する「課題の発見」と「課題の解決」が、幾度となく繰り返されることで、フッ素系洗浄剤は進化してきたのですね…。
花田さま>
そうです。私たちとしても、まさに環境負荷低減を目指して少しずつ前進をしてきました。
『AMOLEA』は、高い洗浄能力と環境への負荷を極小まで低減することの両方を叶えた待望の次世代型フッ素系洗浄剤です。
次回予告
―――硝子メーカーとしてスタートし、原材料の内製化をきっかけにフッ素系製品の製造も手がけるAGC社。今回はフッ素系洗浄剤がどのように環境と向き合ってきたかについて、AGC社でのフッ素系洗浄剤の歴史を基にご紹介しました。次回【後編】では、進化を続けるフッ素系洗浄剤の特長についてご紹介を予定しています。
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