超音波洗浄の原理|キャビテーションの仕組みをわかりやすく解説
超音波洗浄は、溶剤を超音波により振動させ、ワーク(被洗浄物)に付着した細かい塵や汚れを洗浄する技術です。超音波のもつ「物理的作用」と「化学的作用」の組み合わせによる高い洗浄効果を利用しています。
当記事では「洗浄」の基礎として超音波洗浄の仕組みを解説していきます。
・超音波洗浄の仕組み|超音波発生の原理とは
・キャビテーションとは(超音波洗浄の原理1)
・キャビテーション洗浄における周波数の選択
ー「頑固な汚れ」には低周波の超音波洗浄
ー「精密部品」の汚れには高周波の超音波洗浄
ー洗浄物に適した周波数選びが重要
・直進流&粒子加速度とは(超音波洗浄の原理2)
ー直進流効果
ー粒子加速度
・超音波洗浄はさまざまなワークに合わせた洗浄ができる
・洗浄の課題ならJFE商事エレクトロニクスへ
超音波洗浄とは|その効果は?
ここでは超音波洗浄の概要と効果についてご紹介します。
洗浄の種類には大きく分けて下の2種類があります。
- (1)化学洗浄
- (2)物理洗浄
(1)の化学洗浄は酸、アルカリ、炭化水素、界面活性剤などを含んだ洗浄剤を用いて化学的にワークに付着した汚れを落とす方法です。
(2)の物理洗浄はワークに付着した汚れに対して、物理力を作用させて汚れを除去する方法です。例としては、ブラシ等で擦って汚れを落とすブラッシング、高圧の水流を当てて汚れを落とす高圧洗浄などです。今回紹介する超音波洗浄はこの物理洗浄に該当します。
超音波洗浄は、洗浄液中に人には聞こえない音(超音波)を用いて汚れを除去する方法です。化学洗浄の効果に加えて、超音波洗浄を加えることにより洗浄の効果を高めることができるため、様々な洗浄工程に使用されています。
超音波洗浄の仕組み|超音波発生の原理とは
洗浄液へ超音波を発生させるしくみは、振動子へ電気信号を与えて振動子 を振動させ超音波を発生させます。振動子とは電圧を印加すると形状が変化する圧電素子を含んだ部品です。この振動子に対して、波のような電圧を印加することにより圧電素子は波の周期に合わせて振動します。この振動子を洗浄液を含んだ洗浄液が入った洗浄槽内に設置することで、液中に超音波が発生します。
図1.振動子の働き(イメージ)
キャビテーションとは(超音波洗浄の原理1)
キャビテーション現象が洗浄剤内で発生することで、微細な隙間や表面の汚れにも作用するため、キャビテーションは洗浄プロセスにおいて重要な役割を果たします。
洗浄剤内に発生させた超音波によって汚れを除去するしくみとしては、キャビテーションという現象が関係しています。振動子によって発生した超音波により液中には、水圧が高い箇所と低い箇所が無数に発生します。水圧が低い箇所では液中に空隙ができ、水圧が高い箇所ではその空隙がつぶされ、破裂します。この空隙の破裂する際に強い衝撃が発生します。この衝撃を利用して汚れを除去します。これらの現象をキャビテーションと呼びます。
キャビテーションの衝撃の強さは周波数(波の数)によって異なります。周波数が高い場合は波の振れ幅が小さくなるためキャビテーションの衝撃は弱くなりますが、振れ幅が小さいことにより微細な汚れを除去することができ、ワークへのダメージも軽減できます。一方、周波数が低い場合は波の振れ幅が大きいためキャビテーションの衝撃が強いため、頑固な汚れを除去できる一方でワークへのダメージが大きくなります。このため超音波洗浄を用いる場合は洗浄したいワークや汚れによって適切な周波数を選ぶ必要があります。
図2.超音波の発生原理
図3.キャビテーション発生原理
図4.汚れが落ちるしくみ
キャビテーション洗浄における周波数の選択
このキャビテーションの効果を利用する場合は、除去したい汚れや洗浄物の材質に対して最適な周波数を選択することが重要です。表1に周波数別のキャビテーション核の大きさを示します。
「頑固な汚れ」には低周波の超音波洗浄
まず汚れの観点から周波数を選択する場合は、油脂汚れなどの頑固な汚れに対しては、キャビテーション核が大きく、衝撃が大きい”低周波の超音波”が最適です。
「精密部品」の汚れには高周波の超音波洗浄
一方で、微細な精密部品内の汚れを洗浄する際はキャビテーション核が小さく、衝撃が小さい”高周波の超音波”が最適です。
洗浄物に適した周波数選びが重要
また材質の観点からは洗浄物へのダメージを意識した周波数選択が必要です。”低周波の超音波”は衝撃が大きいために洗浄物を傷つける可能性があり、”高周波の超音波”は衝撃が弱いために目的の汚れ除去が不足する可能性があります。
このため周波数を選択する際、汚れの除去力と洗浄物へのダメージがトレードオフになるために、事前評価が必ず必要です。
また周波数によりキャビテーションの発生間隔が異なります。低周波では発生間隔が長いため洗浄ムラが大きく、高周波では発生間隔が短いため洗浄ムラが小さくなります。このため洗浄ムラを小さくするために複数の周波数を使用する方法があります。
表1.周波数別キャビテーションの特徴
直進流&粒子加速度とは(超音波洗浄の原理2)
キャビテーションのほかに「直進流効果」と「粒子加速度」も汚れを除去する効果の一部です。直進流効果と粒子加速度についてそれぞれ解説していきましょう。
直進流効果
直進流効果とは、超音波による液流の攪拌により汚れを含んだ洗浄液を滞留することなく、ワーク表面に常に新液が接するような効果があります。
粒子加速度
粒子加速度とは、洗浄液中の水分子が超音波により振動します。この振動の効果で汚れをワークから剥離する効果があります。
超音波洗浄はさまざまなワークに合わせた洗浄ができる
超音波洗浄は、ブラシ洗浄などでは難しい微細な汚れや複雑な構造の内部の汚れを効果的に取り除く方法です。適切な洗浄液を選定し、超音波の物理的な洗浄作用と洗浄液の化学的な溶解作用を組み合わせることで、洗浄効果が上がります。
超音波を使った洗浄では小さな部品の狭い隙間や溝などの内部洗浄が可能です。
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洗浄の課題ならJFE商事エレクトロニクスへ
高い洗浄効果を持つ超音波洗浄は、洗浄物の形状を問わず、短時間で行える利点があります。一方で、ダメージに弱い洗浄物の場合、傷などの原因になる場合があるのがデメリットといえます。被洗浄物に対して適切な洗浄法を選ぶ必要があるのです。
洗浄のお困りごとに対して、JFE商事エレクトロニクスでは、お客様の現場の洗浄工程に造詣のある専門スタッフがご要望に合わせてご提案させていただきます。
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