金属加工品は製造プロセスにおいて加工油や離型剤が使用されています。このような油は次工程にコーティングやめっきなどがある場合、不良の原因となるために油を取り除く洗浄工程が必要不可欠です。この洗浄度評価確認には様々な方法があり、この記事ではその評価方法と原理を紹介します。
金属は加工中に様々な油が使用されています。例えば加工機械の潤滑油や金属品に塗布されている加工油・防錆油など、様々な原因や目的で金属加工物には油が付着しています。
これらの油分は次工程にコーティング剤の塗布やめっきなどのプロセスがある場合に金属表面の油分がこれらを弾いてしまい、不良の原因となります。このため金属加工において油分の洗浄は必要不可欠です。この油分を洗浄するプロセスのことの”脱脂”といいます。
脱脂には大きく分けて二つの方法があります。一つ目が物理的脱脂方法です。具体的には布による拭き取り法、高温の焼成炉で数時間加熱することで油分を酸化燃焼させる空焼き法などがあります。
二つ目の方法として化学的脱脂法があります。以前は洗浄力が高い塩素系溶剤や
フロン系溶剤が用いられていましたが、人への有害性や環境負荷が課題となり使用が制限されています。これらの理由から現在は、炭化水素洗浄液や、アルカリ洗浄液等の環境負荷の少ない洗浄剤へ切り替わっています。
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製造現場では加工品の品質を管理するために脱脂後の洗浄度を確認する必要があります。確認が不足していれば、製品の油分残渣を捉えきれず次工程の不良につながる上に、工程改善に時間を要する可能性もあります。
そこで次項より製造現場で利用しやすい簡単な確認方法から、より詳細で定量的な評価方法まで、実際に製造現場で使われている油分残渣テストを6種類紹介いたします。
脱脂洗浄度確認として簡易的に行われている方法です。脱脂洗浄後の乾燥させたサンプルに対して墨汁を塗布もしくは浸漬させ、サンプル表面の墨汁のはじき具合を確認する方法。脱脂がしっかりと行われている場合はサンプル表面に均一に墨汁で濡れるのに対し、不十分である場合は油分が残っている箇所が墨汁を弾くという現象が起きます。
墨汁よりも少し定量的に塗れ性の確認をする方法としてダインペンがあります。ダインペンとは塗れ性をチェックしたり、表面張力(ダイン値)を簡易的に評価するための製品です。ダインペンは表面張力別の複数本を使用します。評価方法はあるダイン値のダインペンをサンプルに塗り、2秒間放置し弾き具合で評価します。例えばダイン値40 mN/mのダインペンを使用した場合、放置後にサンプルがダインペンのインクを弾けば、そのサンプルのダイン値は40 mN/m以下であることがわかります。そこからダイン値を38、36… mN/mと下げていき、インクを弾かなくなった値がそのサンプルのダイン値であると特定することができます。
製造現場で簡易的に油分残渣を確認する方法として、サンプルにブラックライトを当て目視検査する方法があります。金属加工に使用される油分には蛍光物質が含まれていることが多く、ブラックライトを照射するとサンプルの残渣の油分が発光し、可視化することができます。
ブラックライトと同じく、簡易評価として粘着評価があります。脱脂後のサンプルに対してセロハンテープなどのテープを貼り付け、一定の圧力をかけ剥離試験を行います。脱脂が十分できていれば剥離ができず、脱脂が不十分であれば剥離されるという評価方法です。評価の際は使用するテープの種類や剥離条件などを検討する必要があります。
塗れ性をより定量的に測定する方法として接触角計を用いて、「接触角」を測定する方法があります。サンプル表面に水滴を一滴落とし、水滴の形状を測定することで「接触角」を測定する方法です。液体はサンプルの表面に滴下されると液体のもつ表面張力で丸くなります。丸くなった水滴の接線とサンプル表面の成す角を「接触角」と言います。この接触角が小さい場合は塗れ性が良く十分に脱脂ができていると言え、逆に接触角が大きい場合は塗れ性が悪く脱脂が不十分と言えます。
またこの「接触角」がわかることで「表面エネルギー」を測定することができます。それは既知の表面エネルギーをもつ水滴をサンプル表面に滴下し、さらにYoungの式を用いることでサンプルの表面エネルギーを算出することもできます。言い換えれば脱脂の洗浄度を表面エネルギーとして測定することも可能です。
赤外分光光度測定を用いてサンプル表面の油分を定量的に測定する方法もあります。評価原理としては抽出した油分の吸光度を測定し、あらかじめ評価した検量線を用いて油分量を算出する方法です。
赤外分光光度測定で測定できる吸光度はLambert- Beer 則で表すことができます。Lambert- Beer 則は以下のような式で表すことができるため、残渣となる油分の濃度と吸光度は比例関係にあると言えます。つまり、既知濃度の油分を含んだ液の吸光度を数点測定すれば検量線を作成することができます。サンプル表面の油分を抽出し吸光度を測定し、この検量線と照らし合わせることで定量的なサンプル表面の油分残渣量を算出することができます。
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