炭化水素系洗浄機『CLEANVY』『CLOVA』や次世代フッ素系洗浄機『FISTA』『FLOVA』の産みの親であり、産業洗浄分野で深い知見を有している洗浄機器専門メーカー 株式会社クリンビーの岡村 和彦社長に、これまでと、これからの産業用洗浄機についてお話を伺いました。
前編では、これまでの産業用洗浄機における脱フロンの流れと共に、クリンビー創業の歴史について語っていただきました。ぜひ後編まで続けてご覧ください。
※本記事は前編・後編のうち、【前編】となります。
■脱フロンの歴史と共に歩んだクリンビー
岡村社長:クリンビーは、フロン全廃の年でもある1995年に設立しました。そのためまさに脱フロンの流れと共に歩んできたといっても過言ではないのですが、設立については産業洗浄とフロン、そして環境問題について少し振り返る必要があります。ひとつひとつ、掘り下げてお話をしていきますね。
私はクリンビー設立前の1980年代当時、セイコーエプソン株式会社でエンジニアとして勤めていました。当時の社会背景としては世界的にオゾン層の破壊が問題視されていて、地球温暖化を防ぐための活動が活発化していたんです。そして1987年にモントリオール議定書が採択されることで、冷媒や洗浄に用いる溶剤といった工業製品に使用されている特定フロンが段階的に削減されていくことが決まりました。
洗浄分野においてフロンは、その洗浄力はもちろん、扱いやすさ、そして人体への無害さから主流だったといえます。しかしそんなフロンが1995年には全廃されることも決まり、「じゃあ、フロンの代わりに洗浄剤は何を使うんだ?」ということがひとつの焦点となっていました。
岡村社長:まさにその通りです。ある人は「フロンのメーカーさんが、すぐ環境問題をクリアした次のフロンを作ってくれるだろう」と話していたり、ある人は「新しいフロンがそんなに早くに出てくるわけがない、どうしたものか…」と話していたり、悩ましい問題でしたね。
実際に、1987年から1995年なんて10年もなかったんです。だからこそ、「もう今すぐなんとかしないと!」という声も多く、暫定対策として塩素系などの別の洗浄剤に一時的に切り替える企業や、恒久対策として水系に舵を切ろうというという企業もいたんですよ。
当時のセイコーエプソンは、環境問題に前向きに取り組むことはもちろん、1995年から2年前倒しをして1993年までに「当社ではフロンを全廃します!」という宣言をしました。それから社内で「脱フロンプロジェクト」が発足して、私もそのメンバーの一員に選ばれたんです。
■課題から見えた“炭化水素系洗浄”時代の到来
はい、そうですね。当時の洗浄剤の選択肢としては主に、「新しいフロンの誕生を待つ」、「水系」、「炭化水素系」の3つでした。そして私がセイコーエプソンに在籍していた際は、水系洗浄に注力していたんです。というのも、安全性に配慮した結果ですね。
たとえば「炭化水素系溶剤」は「石油系溶剤」とも呼ばれるように、石油を原料につくられています。水系よりも優れていることのひとつは、その脱脂力の高さが挙げられますね。しかしデメリットとしては、やはり油なので火災の危険性が挙げられます。
水系洗浄に注力してきたからこそ、水系洗浄の課題も感じられたのが大きいかもしれません。水系洗浄の優れている点としては、火災などの危険性が少ないことが挙げられます。しかし、炭化水素系に比べると洗浄力が劣る点や、導入にあたって大規模な設備を揃えなければならないというデメリットもあるんです。
大手企業のように排水設備を十分に用意できる環境であれば問題はないかもしれません。しかし、日本の洗浄機需要でいえば大部分を中小企業が占めていて、すべての中小企業が排水設備を十分に導入するのは容易ではないと考えました。
ということは脱フロンの流れの中で中小企業が取れる選択肢としては、新しいフロンの誕生を待つか、炭化水素系洗浄に切り替えるかのどちらかだと。さらに、新しいフロンの誕生は時間がかかるはずなので、「炭化水素系洗浄の時代がきそうだ」と思うに至ったわけです。そしてこれをきっかけに独立し、クリンビーの設立に動き出しました。
■これまでの概念を変える”密閉式”の誕生
火災の危険性については、酸素に注目することで解決を図りました。炭化水素系洗浄の課題について悩んでいた際に、パッと思いついたんです。「真空状態であれば、火災の危険性がなくなるのでは」と。実際にこのアイデアが現在のクリンビーで主軸を担っている、いわゆる“密閉式”の炭化水素系洗浄機の開発につながります。
従来タイプの炭化水素系洗浄機では、複数の洗浄槽を経由して洗浄をおこなっていました。その際、洗浄工程の途中で製品の出し入れをする必要があり、必ず酸素が入り込みます。しかしひとつの洗浄槽で完結する密閉式であれば、洗浄工程の途中で製品の出し入れをする必要がないため酸素が入り込むことがなく、火災の危険性を回避することができます。これにより、炭化水素系洗浄における安全性の問題をクリアすることができました。
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